
きんこちゃん、げんき?



こんにちは!豆乳ヨーグルトのお陰で快調(快腸)ですよ♬今日はどんな話をしてくれるんですか?



そうだね、これまで豆乳ヨーグルトの研究していて論文も結構出たからそれを一挙に紹介しようかと思うよ。できるだけ簡単にまとめようと思いますが、菌活大学のカテゴリーとしては「大学院」レベルです。



おぉぉ、それは嬉しいです!まとめてくれるのはありがたいです。



それではいってみよう!!私達の研究はまだ人での試験はしてないから、その辺りはちゃんと認識して聞いてね。



らじゃー!!



(なんだかんだいってもボクのことみんな好きだよね。ついにボクの時代が!)
はじめに ― 植物代替ミルクと豆乳の魅力
近年、健康志向の高まり、乳アレルギー対応、環境負荷低減の観点から、植物由来の代替ミルクが世界中で注目されています。アーモンドミルクやオーツミルク、ライスミルクなど、多様な植物性飲料が市場に登場していますが、その中でも豆乳は最も古くから利用され、栄養価と機能性に優れた植物性ミルクです。
大豆には高品質な植物性タンパク質が豊富に含まれ、必須アミノ酸をバランスよく摂取できるため、筋肉や臓器の維持、免疫機能のサポートに役立ちます。また、大豆にはイソフラボン、サポニン、オリゴ糖、食物繊維、ビタミン、ミネラルなど生理活性成分が含まれ、抗酸化作用や女性ホルモン様作用、さらには血管や骨の健康維持に寄与することが知られています。さらに豆乳はコレステロールを含まず、植物性ステロール(大豆ステロール)が含まれているため、心血管疾患リスク低減を意識する方にもオススメの飲料です。
加えて、大豆の生産は牛乳に比べて温室効果ガス排出量や水使用量が少なく、環境負荷が低いため、持続可能性の高い食品としても注目されています。また、豆乳は、乳糖不耐症や乳アレルギーの方、ヴィーガンの方用の代替ミルクとしてもその存在意義を増してきています。しかし、豆乳には独特の風味や食感があり、そのままでは継続して摂取しにくい場合があります。また、飲みやすくした調製豆乳には砂糖などの甘味料が大量に含まれているためダイエット中の方や糖分摂取が気になる方には必ずしも最適な選択肢とは言えません。そこで私たちは、乳酸菌による発酵を通して風味改善と機能性の向上を同時に狙い、「豆乳ヨーグルト」としての利用価値を探求してきました。
私たちはこれまでの研究により、豆乳ヨーグルトの抗酸化作用、抗糖化作用、抗炎症作用、整腸作用、認知機能向上など、多面的な健康効果を持つ可能性を見出しています。以下で、各作用の詳細とメカニズム、そして私たちの研究成果について順を追って解説します。
1. 抗酸化作用 ― 活性酸素から体を守る
解説する論文
Naoki Yamamoto, Momoka Shoji, Hiroki Hoshigami, Kohei Watanabe, Kohei Watanabe, Tappei Takatsugu, Shin Yasuda, Keiji Igoshi and Hideki Kinoshita. Antioxidant capacity of soymilk yogurt and exopolysaccharides produced by lactic acid bacteria. Bioscience of Microbiota, Food and Health, 38(3), 97–104, 2019.
背景および目的
人間の体は酸素呼吸によってエネルギーを得ますが、その過程で活性酸素が生成されます。活性酸素は適量であれば免疫応答や細胞シグナル伝達に必要ですが、過剰になると細胞膜やDNA、タンパク質を酸化し、老化やがん、生活習慣病の原因となります。この酸化ダメージを防ぐ物質が抗酸化物質です。食品から抗酸化物質を摂取することで、体内の酸化ストレスを緩和し、健康維持や老化予防に役に立ちます。豆乳はイソフラボンやサポインなどの抗酸化物質を含む飲料ですが、乳酸菌で発酵させた豆乳ヨーグルト(発酵豆乳)は、抗酸化能の向上が見られるのではないかと考えました。
私たちの研究成果
この論文では、発酵させた豆乳ヨーグルトの抗酸化能を評価しました。その結果、一部の乳酸菌で作った豆乳ヨーグルトは、発酵前よりも抗酸化能が顕著に向上しました。培養細胞を使った試験でも豆乳ヨーグルト(の上清)を添加した際に、顕著に活性酸素種の産生を抑制したほか、DNAの損傷も効果的に減少させました。
さらに、発酵によって大豆イソフラボンが配糖体型からアグリコン型に変換されることを確認しました。このアグリコン型イソフラボンは体内での吸収率が高く、より強力な抗酸化作用を示すため、発酵による抗酸化能向上の一つのメカニズムだと考えられました。また、乳酸菌が作り出す菌体外多糖(EPS)も抗酸化に寄与している可能性が示されました。
日常生活での意味と課題
本論文でPediococcus pentosaceus TOKAI 759m (論文中ではMYU759と記載。このブログではペディオちゃん)などのいくつかの有用菌を発見しました。豆乳ヨーグルトを日常的に摂取することで、食事から自然に抗酸化物質を補給でき、老化や酸化ストレス関連疾患の予防に寄与することが期待されます。サプリメントに頼らず、毎日の食事で簡単に抗酸化対策が可能な発酵食品として豆乳ヨーグルトは優れていると考えられます。しかし、本研究での成果はin vitro(試験管や細胞レベル)での試験ですので、実際に生体での検証が必要なのが課題と言えます。
2. 抗糖化作用 ― 老化や糖尿病合併症の抑制
解説する論文
Yuki Nakashima, Naoki Yamamoto, Ryosuke Tsukioka, Hikari Sugawa, Rina Ohshima,
Kaede Aoki, Tomoyuki Hibi, Kotone Onuki, Yudai Fukuchi, Shin Yasuda, Ryoji Nagai and Hideki Kinoshita. In vitro evaluation of the anti-diabetic potential of soymilk yogurt and identification of inhibitory compounds on the formation of advanced glycation end-products. Food Bioscience, 50, 102051, 2022. リンク
背景および目的
日本における糖尿病およびその予備軍はそれぞれ1000万人以上いると言われており、非常に深刻な問題と言えます。糖尿病の方の食事として、血糖値を急激に上げない食事、すなわち低GI食品が挙げられます。豆乳は低GI食品として知られ糖尿病やその予備軍の方の飲み物としても優れた特性を持っています。その他、血糖値を急激に上げない方法として、糖類分解酵素の阻害能を示す食事の摂取が挙げられます。本研究ではそれらの酵素阻害にも着目しています。
また、近年では血中などの糖とタンパク質が結びついてできる終末糖化産物(AGEs, エージーイーズ)が糖尿病患者で高いことも指摘されています。AGEsは血管、コラーゲン、脳などの組織に蓄積し、生活習慣病などの様々な疾病や骨・肌の健康にも影響し老化の原因となることが知られています。糖尿病などは、一度なってしまうとなかなか完治しにくい病気と言えます。そのため、普段の食事による糖化抑制はアンチエイジングや生活習慣病予防に重要と考えられています。
以上のような背景から、豆乳ヨーグルトの糖類分解酵素阻害やAGEs生成阻害能を評価しました。
私たちの研究成果
21菌株の乳酸菌を用いて発酵豆乳ヨーグルトを作製し、糖類分解酵素の阻害試験を行ったところ、いくつかのサンプルで未発酵の豆乳よりも高い阻害効果が見られました。この効果は糖の吸収を穏やかにする効果を試験官での試験で見たものになります。また、インスリンを分解する酵素であるDPP-Ⅳという酵素の阻害能も調べたところ、7つサンプルは豆乳よりも高いことが分かりました。インスリンはペプチド(短いタンパク質)であるため、乳酸菌の発酵によってできるペプチドが競合的に阻害している可能性が示されました。
また、AGEs生成阻害効果を調べた結果、CMAやCMLというAGEsの生成阻害を示したものの、こちらは未発酵の豆乳と統計学的な差は見られませんでした(豆乳も豆乳ヨーグルトも同程度の阻害能がある)。そこで蛍光性AGEsの阻害を調べたところ、イソフラボンをアグリコン化する能力が高いLactiplantibacillus plantarum TOKAI 17(プランタラム菌)などで作製した豆乳ヨーグルトで豆乳より高い阻害効果が見られました。
そこでイソフラボンのAGEs生成阻害能を調べたところ、アグリコン型イソフラボンの方が配糖体イソフラボンより高い阻害活性を示しました。AGEs生成阻害は抗酸化も影響することから、アグリコン型イソフラボンやその他の抗酸化物質(可能性として抗酸化ペプチドやインドール乳酸など)がこの阻害に関与している可能性が示されました。すなわち、豆乳ヨーグルトの抗酸化作用が、糖化ストレスに対する防御効果にも寄与している可能性が示されました。
日常生活での意味と課題
糖の吸収を穏やかにし、抗糖化効果を持つ豆乳ヨーグルトは、糖尿病やその予備軍の方への食事や、美容や老化対策を意識する方にとって非常に良い選択肢になる可能性があります。日常的に豆乳ヨーグルトを摂取することで、糖化リスクを低減できる食品としての利用が期待されます。この論文ではありませんが、既に糖尿病モデルマウスでの投与試験によってAGEsの蓄積を減らすことを明らかにしていますが(未公表データ)、やはり人での検証は課題の一つです。
3. 抗炎症作用 ― 腸内環境と全身の免疫調節
解説する論文
Yuki Nakashima, Kotone Onuki, Tomoyuki Hibi, Rei-Ichi Ohno, Hikari Sugawa, Yuki Tominaga, Shin Yasuda,
and Hideki Kinoshita. Soymilk yogurt fermented using Pediococcus pentosaceus TOKAI 759 m improves mice gut microbiota and reduces pro-inflammatory cytokine production. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 88(11), 1349–1361, 2024. リンク
背景および目的
急性炎症は、細菌感染やケガなどに対して体がすぐに起こす防御反応で、赤み・腫れ・熱・痛みなどが現れます。この反応は通常は数日から数週間で収まります。ところが、ゆるい炎症状態がずっと続く慢性炎症が現在、問題視されています。慢性炎症は糖尿病、動脈硬化、ガンなど多くの生活習慣病のリスク要因の一つとされています。
また、腸内細菌は免疫や炎症に深く関与しており、腸内環境改善は全身の炎症抑制に繋がります。以上のような背景から本論文では、乳酸菌や豆乳ヨーグルトが免疫応答や腸内細菌叢へ与える影響について解析しました。
私たちの研究成果
上記のTOKAI 759m(ペディオちゃん)とTOKAI 17(プランタラム菌)で作った豆乳ヨーグルトと菌体をそれぞれマウスに与え、腸内環境と炎症マーカーを測定しました。その結果、TOKAI 759mで作製した豆乳ヨーグルトで血中や脾臓に存在する免疫細胞が出す一部の炎症性サイトカイン(免疫応答を惹起するタンパク質)を抑制しました。
また、酪酸は炎症を抑えることが報告されていますが、その酪酸を作る酪酸産生菌が増えていることが明らかになりました。様々なメカニズムが考えれますが、腸内フローラ改善 → 短鎖脂肪酸増加 → 免疫調節 → 炎症抑制 という多段階作用を持つ可能性が示唆されました。
日常生活での意味と課題
本研究ではTOKAI 759mで作製した豆乳ヨーグルトが高い抗炎症能を持つことが明らかになりました。腸内環境を整えることで慢性炎症を抑え、生活習慣病リスク低減に寄与する可能性があります。日常的に摂取しやすい食品として、非常に実用的と言えます。
TOKAI 17乳酸菌は豆乳ヨーグルト投与より菌体だけの投与で酪酸産生菌やビフィズス菌を増やし、抗炎症作用が見られるという面白い結果が得られました。これは豆乳の成分や発酵により新たに産生される成分なども関与していると考えられますが、複雑でまだ完全なメカニズム解明はできていません。しかし、この乳酸菌は菌体だけのサプリメントでの利用が有効である可能性が考えられます。
4. 認知機能への可能性 ― 腸内細菌-腸-脳相関を介して
解説する論文
Yuki Nakashima, Tomoyuki Hibi, Masafumi Urakami, Maki Hoshino, Taiki Morii, Hikari Sugawa, Nana Katsuta, Yuki Tominaga, Himeno Takahashi, Asako Otomo, Shinji Hadano, Shin Yasuda, Ayaka Hokamura, Saki Imai and Hideki Kinoshita. Soymilk yogurt prepared using Pediococcus pentosaceus TOKAI 759m ameliorates cognitive function through gut microbiota modulation in high-fat diet mice. Current Research in Food Science, 10, 100993, 2025. リンク
背景および目的
世界では10億人以上の肥満者がいると言われています。肥満は様々な疾病のリスクとなるほか、神経炎症や認知機能低下のリスクを高めることも知られています。上記で示したようにTOKAI 759mで作製した豆乳ヨーグルトは、腸内環境改善や抗炎症作用を示しました。そのため、この豆乳ヨーグルトが肥満による認知機能低下や神経炎症を和らげる効果があるのではないかと考え、検証しました。
私たちの研究成果
本研究では、高脂肪食をマウス与え太らせたマウスを用いて研究を行いました。
マウスを以下の食餌群に分け、15週間にわたり観察しました:
- 通常食(コントロール群)
- 高脂肪食(高脂肪食投与群)
- 高脂肪食 + 豆乳(豆乳投与群)
- 高脂肪食 + 豆乳ヨーグルト(豆乳ヨーグルト投与群)
- 高脂肪食 + TOKAI 759m菌体(菌体投与群)
その後、血清および海馬における炎症性サイトカインのレベルを測定しました。高脂肪食投与群と比較して、豆乳ヨーグルト投与群は新規物体認識試験のスコアが高く、記憶を司る海馬の炎症性サイトカイン値が低いことが示されました。
さらに、糞便サンプルを収集して腸内細菌叢を測定したところ、豆乳ヨーグルト投与群では酪酸産生菌の割合が高脂肪食投与群よりも高い傾向が見られました。
その他、追加のin vitro実験では、豆乳ヨーグルトの成分であるダイゼイン、ゲニステイン、アデニンが、ミクログリア細胞(脳のマクロファージのような役割をしている細胞)における炎症性サイトカイン産生を低下させることが示されました。
結論として、TOKAI 759m を用いた豆乳ヨーグルトは腸内細菌叢を調節し、神経炎症を抑制することで認知機能の改善につながる可能性があることが示されました。
日常生活での意味と課題
まだまだ研究段階ではありますが、豆乳ヨーグルトは、腸内細菌–腸–脳軸(microbiota–gut–brain axis)を介して脳の健康を間接的にサポートする食品としての可能性が示されました。今後、ヒトへの臨床試験によりその効果の検証が必要ですが、この研究により普段の食生活において、認知症予防に繋がる可能性が示されました。現在、長期投与でどうなるかの試験を行っており、一部面白い結果も得られています。その報告は論文で公表されたらご報告したいと思います。
まとめ ― 私たちの研究の意義と展望
私たちの研究により、豆乳ヨーグルトは単なる乳代替品ではなく、多面的に健康をサポートする食品である可能性を示すことができました。
- 抗酸化作用:活性酸素から細胞を守る
- 抗糖化作用:AGEs生成を抑え、老化や血管リスクを低減(糖尿病患者およびその予備軍の方への食事としての可能性も)
- 抗炎症作用:腸内環境改善を通じて免疫調節
- 認知機能向上:腸内細菌–腸–脳軸を介した間接的サポート
- 整腸作用:腸内環境改善(有用細菌群の増加)
本研究はあくまで可能性を示した段階ですが、今後はヒト臨床試験や長期摂取研究を通じ、これらの機能性が実際に健康維持や疾病予防にどの程度寄与するかを検証していきたいと考えています。しかしながら、私たちの研究は、豆乳ヨーグルトが日常生活に自然に取り入れられる「機能性食品」として、幅広い健康効果を提供できる可能性を示していると考えています。今後も研究を続け、少しでも皆さんの健康に役立つ情報を提供していきたいと考えています。
今回解説した論文情報まとめ(私たちの研究)
- 抗酸化:Antioxidant capacity of soymilk yogurt and exopolysaccharides produced by lactic acid bacteria. Bioscience of Microbiota, Food and Health, 38(3), 97–104, 2019. リンク
- 抗糖化:In vitro evaluation of the anti-diabetic potential of soymilk yogurt and identification of inhibitory compounds on the formation of advanced glycation end-products. Food Bioscience, 50, 102051, 2022. リンク
- 抗炎症:Soymilk yogurt fermented using Pediococcus pentosaceus TOKAI 759 m improves mice gut microbiota and reduces pro-inflammatory cytokine production. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 88(11), 1349–1361, 2024. リンク
- 認知機能向上:Soymilk yogurt prepared using Pediococcus pentosaceus TOKAI 759m ameliorates cognitive function through gut microbiota modulation in high-fat diet mice. Current Research in Food Science, 10, 100993, 2025. リンク
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