最近、乳酸菌入りの食品や飲料が増えましたよね
そうだね。でもいつも「怪しいものも多いな」って思ってしまいます
え?そうなんですか?でもガセリ菌がいいとかロイテリ菌がいいとかいうじゃないですかぁ〜。
もちろん良い菌も沢山いるんだけど、ガセリ菌だから良いとかロイテリ菌だから良いとかは一概に言えないんですよ
えぇぇぇ、そうなんですか〜〜。私はてっきりガセリ菌とかロイテリ菌がいいと思ってました。
それは、例えば宇宙人がウサイン・ボルトが100mを9秒58で走っているのを見て、人間全員がそのぐらい早く走れるんだと勘違いするような感じです
なるほど〜、分かるような分からないような。もっと詳しく教えて下さい!
OK、では今回は乳酸菌の個性についてお話しますね
(ぼくも登場させてね)
OK!では行ってみましょう
乳酸菌の種類と学名
乳酸菌というのは総称なので色んな種類がいます。
Lactobacillus属、Pediococcus属、Lactococcus属、Enterococcus属、Leuconostoc属、Pediococcus属などです。
また、記事にしますがLactobacillus属は、最近、なんと!25属に再分類されました。覚えられなくて泣きそうです。ただ近縁種が分かりやすくなりました。
これは属の話です。種まで入れると相当な数があります。そして、新種が見つかると増えていきます。
属と種とか言われても良く分からない人もいると思うのでちょっと説明します。学名は属と種の二名法で表されます。人の学名はHomo sapiens(ホモ・サピエンス)ですが、Homoが属でsapiensが種です。Homo属sapiens種という事になります。ちなみに学名はラテン語で、書くときは斜体(イタリック体)にします。
菌も人間と一緒で個性がある
さて、冒頭のきんこちゃんのコメントを振り返ってみましょう。彼女は「ガセリ菌とかロイテリ菌がいいと思ってました」と言っていますね。
確かにいいのです。ある菌株では。
菌株?
菌株とは人でいうと個人に相当する概念です。リクエストに応えてペディオちゃんで説明してみます。
(やった〜)
ペディオちゃんの正式な名前は、Pediococcus pentosaceus TOKAI 759mです。
Pediococcus(ペディオコッカス)が属、pentosaceus(ペントサセウス)が種です。TOKAI 759mが菌株名で人間で言うところの名前になります。私を学名で表すとHomo sapiens KinoPという感じになります。KinoPが名前です。
突然ですが、ここで話を変えて質問です。あなたは100メールを何秒で走れますか?
10秒切れる人はほぼいないでしょう。
では次の質問です。あなたは文字が読めますか?
このブログを見ていると言うことはほぼ100%の人が文字を読めるはずです。
これと同じような感じで、乳酸菌には種としての特性(能力)と株としての特性(能力)があると思っておいてください。
個性豊かな乳酸菌
上で述べたように乳酸菌には個性があります。
人もスポーツが得意な人、絵が得意な人、歌が上手い人、頭がいい人など能力は様々です。天から二物も三物も与えられ、色んなことに長けている方もいます。菌も同じなのです。
抗酸化能が高い菌株、免疫調節作用に長けている菌株、腸管付着性が高い菌株など機能によって様々です。
私達は実験によって菌株ごとに機能性を評価しています。多くの場合、乳酸菌の機能性は種ではなく株ごとに違います。たまに種によって高い傾向がある場合もありますが、それでも菌株依存的な場合が多いです。
こういうものには気をつけよう
私が冒頭で「いつも怪しいものも多いなって思ってしまいます」と言いました。
これってどういう意味かわかりますか?
勘が鋭い人ならもうお分かりかと思います。
例を出して説明しますね。乳酸菌入りの食品があったとします。ガセリ菌としましょう。
その会社のホームページに色んな文献を元にしたガセリ菌の機能性が書かれていたとします(そういうサイトは沢山ありますね)。あたかもその会社で取り扱っているガセリ菌にもその機能性があるような書き方がされています。先程も述べたように基本的には機能性というのは株ごとに評価しないといけないのです。ガセリ菌A株で高い抗酸化能が見られたとしてもガセリ菌B株で同じぐらい高い抗酸化能があるかは実験してみないと分からないのです。
これが私が怪しいと言っている理由です。
その菌株自体のデータを示せないというのは、「試験していません」と言っているようなものです。薬機法の関係でそもそもデータを載せられないということもあるかもしれませんが。
種としての特徴はないの?
アフリカの方は筋肉が引き締まっていて、瞬発力が高いイメージがありますし、実際そういう人は多そうです。日本人は世界の方と比較してシャイで真面目な人が多いと言われています。確かにそういう国や地域ごとの特性はあるのかもしれません。
やはり菌も同じです。種としての特徴がある場合もあります。
例えば私は菌体表層のタンパク質の研究をしていますが、確かにある菌体表層タンパク質の量を測ると、特定の菌種に多い傾向があることを見出しています。また、抗炎症作用をみた試験でも上位に特定の種が偏っていました。しかし、これだけでこの種が優秀だとは言い切れないのです。やはり数をこなし、論文数の蓄積が必要になってきます。
また、同じ遺伝子を持っていても発現しているタンパク質が違うということもありますよね。例えば、一卵性双生児でも育つ環境(ストレス、食事、運動、気候、土地柄など)の違いにより、顔が違ってきたり、健康状態が違ったりしますね。生物は環境に適応(左右)されるからです。乳酸菌はもっと顕著です。育つ環境が違うと発現しているタンパク質が異なり、機能も変わってきます。ですので、同じ菌種でも腸から単離したものと、植物から単離したものでは特徴が違うことも多いです。
さらにいうと、腸内菌叢は個人個人によって異なるので、その人に合っている菌も恐らく異なってくるでしょう。これが私が「どの乳酸菌が良いですか?」という質問に答えられない理由でもあります。ありきたりに「個人に合った菌を探してみてください」というしかないのです。
まとめ
「宇宙オリンピックをやるので地球人代表を選んでください」と言われたときに、「この国から選ぼう」という判断はしないと思います。各国から優秀な選手を選んできて、さらにそこから選抜するでしょう?
もしかしたら、ある種目では特定の国の選手が多くなるかもしれないですが、基本的には出身地というより個人の資質が大きいと思います。もし能力試験をやらずに選んでくださいと言われれば、その競技が得意な国から選ぶかもしれませんね。その感覚が「ガセリ菌が良いとか、ロイテリ菌が良いとか」言っている感覚です。ただ、それを言うと、プランタラム菌もいいし、ラムノーサス菌もいいし、カゼイ菌もいいし、ファーメンタム菌もいいし、ペディオちゃんも良いということになります。
資金がある大企業は、しっかりと試験をして選んだ乳酸菌を使っています。研究というオリンピック選考試験をやっています。つまり多くの人に効く可能性が高いオリンピック選手を商品に使っているのです。特定の機能を期待する人にとってはがむしゃらに色んな菌を試すよりも遥かに効率的に良い菌に出会えると思います。ただその人に合ったものかは分からないので、あくまでも個人に合ったものを探すのが良いと思います。
大企業の商品に使われていたりする菌は、資金力と研究力で様々な機能性が見いだされています。ただ、もしかするとあなたが作っているぬか漬けにいる乳酸菌があなたにとってのオリンピック選手かもしれません。証明できないだけで物凄い機能を持っているかもしれません。そう考えると発酵食品を作るのが楽しくなってきますね。
あなたの腸内で活躍してくれるあなただけのオリンピック選手を探してみてください。
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